自分の名前を読み間違えられてきた親は、子どもに読みやすい名前を付ける?

名付けの「?」

名前について考えていて、ふと一つの疑問が浮かびました。

自分の名前を何度も読み間違えられてきた人は、子どもには読みやすい名前を付けようとするのだろうか?

たとえば、珍しい苗字や読み方の難しい名前で、

「なんと読むんですか?」

と何度も聞かれてきた人。

病院で違う読み方をされた。

電話で何度も説明した。

初対面のたびに読み方を伝えてきた。

そんな経験が多ければ、

「自分の子どもには、一度で読んでもらいやすい名前を付けたい」

と思うような気がします。

かなり自然な話に思えました。

ところが、調べてみると、予想とは少し違う研究結果がありました。

実際に、似たことを調べた研究があった

日本教育心理学会の2013年の発表論文に、名付けについて調べた研究があります。

2012年に、幼稚園や保育所に子どもを通わせている母親508人を対象として、名付けについて質問紙調査を行っています。

その中に、まさに気になっていたことに近い調査がありました。

研究では、

母親自身の名前を読み間違えられた経験

と、

子どもには読み間違えられない名前を付けようと配慮したか

との関係を調べています。

「自分が読み間違えられてきたなら、子どもの名付けでは読みやすさを意識するのでは?」

という考えです。

ところが結果は、

統計的に有意な差は認められませんでした。

父親についても、名前を読み間違えられた経験と、子どもの名付けでの配慮との間に有意な差はなかったと報告されています。

つまり、この調査を見る限り、

「自分が読み間違えられて苦労した人ほど、子どもには読み間違えられにくい名前を付ける」

とは言えなかったのです。

これは少し意外でした。

読みやすさだけで名前を決めているわけではない?

なぜ、このような結果になったのでしょうか。

この研究だけから理由まで決めることはできません。

ただ、同じ調査を見ると、名付けで重視したことは一つではありませんでした。

2012年の調査では、

音の響き。

画数。

漢字の意味。

家族の名前の一部。

読み間違えられないこと。

周りにない名前であること。

など、いくつもの要素が挙げられています。

名前を決めるときには、

「自分が読み間違えられて嫌だったから」

という経験だけでなく、

いろいろな思いや条件を一緒に考えているのかもしれません。

そもそも、日本の名前は読むのが難しいことがある

日本の名前には、もう一つ特徴があります。

同じ漢字でも、いくつもの読み方ができることです。

2021年に発表された研究では、2004年から2018年に生まれた赤ちゃんの名前データを分析し、よく使われる漢字表記でも読み方に多くのバリエーションがあることが示されています。

たとえば研究では、「大翔」という表記に18通り、「結愛」に14通りの読みが確認されました。

つまり、

よく見る漢字を使っているから、一度で正しく読んでもらえる

とも限らないのです。

名前の「読みやすさ」を考えること自体が、思っていたより単純ではないようです。

では、「難読な苗字」の人ならどうなのだろう?

ここで、もう一つ「?」が残りました。

今回見つけた研究で調べられているのは、

親自身の「名前」を読み間違えられた経験

です。

では、

もともと珍しい苗字や難読な苗字を持ち、子どものころから何度も説明してきた人

ではどうなのでしょうか。

「苗字だけでも毎回説明するのだから、せめて名前は読みやすくしてあげたい」

と考える人もいるかもしれません。

反対に、

「自分もずっと説明してきたけれど、それほど困っていない」

という人もいるかもしれません。

今回調べた範囲では、

難読な苗字を持つ親ほど、子どもに読みやすい名前を付けるのか

というところまで直接確かめられる研究は見つけられませんでした。

ですから、ここはまだ、

「そういう傾向がある」とは言えません。

でも、面白い「?」は残りました。

自分の経験は、名付けにどのくらい影響する?

以前、

「読みやすい名前にした方がいい? 気に入った名前との間で迷ったら」

という記事で、読みやすさについて考えました。

今回調べてみて、もう一つ気になったのは、

親自身の経験を、どこまで子どもの名前に重ねるのか

ということでした。

自分が困ったから、子どもには困ってほしくない。

自分が気に入っていたから、子どもにも同じものを贈りたい。

自分とは違う経験をしてほしい。

名付けには、そんな親自身の人生も少し入ってくるのかもしれません。

ただ、それだけで名前が決まるわけでもない。

だからこそ、

「自分はなぜ、この条件を大切にしているんだろう?」

と考えてみると、名前を選ぶときの自分の気持ちが少し見えてくるのかもしれません。

調べてみたら、仮説どおりではなかった

最初は、

「読み間違えられて苦労した親なら、子どもには読みやすい名前を付けるのでは?」

と思っていました。

でも、実際に研究を探してみると、少なくとも今回見つけた調査では、その関係は確認されていませんでした。

予想とは違いました。

でも、だからこそ面白い。

名前について「きっとこうだろう」と思ったことも、調べてみると違う景色が見えることがあります。

そして今回、

「では、難読な苗字を持つ親ではどうなのだろう?」

という、新しい「?」も残りました。

「名前のはてな」では、これからも、

気になったことを、決めつける前に調べてみる。

そんな記事も少しずつ増やしていきたいと思います。

「読みやすい名前にした方がいい? 気に入った名前との間で迷ったら」

参考

日本教育心理学会 第55回総会発表論文集「名づけの心理3―10年前の調査結果との比較―」
2012年に幼稚園・保育所へ子どもを通わせる母親508人を対象に行われた質問紙調査です。

Humanities and Social Sciences Communications “I know the name well, but cannot read it correctly: difficulties in reading recent Japanese names”
近年の日本の名前について、同じ漢字表記に複数の読み方が存在することをデータから検討した研究です。

参考リンク

公開記事では、参考文献名そのものにリンクを設定すればよい。

日本教育心理学会の発表論文(J-STAGE)

日本の名前の読みの多様性を調べた2021年の研究

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